従業員わずか7 名で、営業スタッフは
無線応用機器や電子応用機器などの開発を手がける「ファースト電子開発」は、規模は
小粒ながら、世界市場で7割と圧倒的なシェアを占める製品を持っている。
1990年に「タグ・ホイヤー」 と共同開発した、スポーツ競技用のタイム計測装置だ。
複数のスタートシグナルをゴール地点に無線伝達し、マイクロコンピュータで集計処理、
競技者ごとのタイムを計測・印刷するシステムで、「各国のスキー競技や陸上競技などで
使われているほか、おもしろいところでは、警視庁の白バイ隊競技などでも使われています」
と伊藤社長は解説する。発売以来、これまでにタグ・ ホイヤーのブランドで約4000台国内外
に出荷したという。
同社の設立は1967年。設立以降、音量を増幅するオーデイオコンプレッサー、侵入者通
報装置など、さまざまな商品を開発してきた。とくにオーディオコンプレッサーは、他国の模造
品に押されて衰退したものの、一時は世界各国に輸出されるまでの商品になったことがある。
そんな同社が競技用のタイム計測装置を開発することになったキッカケは、それまで有線
だった計測装置を無線化し、設置作業を効率化しようと、欧州のスキー連盟が、無線化の
開発者募集したこと。「タグ・ホイャーがそれに応募し、日本の総代理店「ワールド通商」を通じ
て'開発を担当する企業を探し手板のです。ワールド通商の斉藤洋介社長と、古くからの友人
だったこともあり、当社に依頼が舞い込み、開発を担当することになったのです」
連盟側が求めてきた誤差の基準は1000分の5秒。「回路的な遅れをいかになくすか。
また、いかに数百メートルの高度差、極寒という悪条件の下でもきちんと電波を送受信できる
ようにするか・・・・・・・という開発だったのですが、始めたときから、それを実証できないかと
不安だったのです」そうした不安を抱えつつも開発を進めていった。
そんな折、「岩崎通信機から、1 000分の1秒の単位まで誤差を測定できる電子計測器
(デジタルストレージスコープ)が発売された。価格は200万円強。「(売上高が数千万円の)
当社にとっては高い買い物。しかし、思い切って購入しました」
当時、スイスの時計メーカーなど数社が開発に名乗りを上げていた。「結局この装置で
1000分の1秒誤差基準をクリアしていることが確認でき、完成させることができました」と
伊藤社長は当時を振り返る。開発を始めてから約半年後のことだった。「ただし、すべての
計測装置が1000分の1秒に対応していないためなのか、いまでも競技会のタイムの表示は
100分の1で行なわれています(笑)」
ある意味、大企業という“神輿”に乗る形で、世界市場を開拓してきた同社ではあるが、
伊藤社長は、ある戦略をとった。それは類似商品が登場するのを押さえるため、あえて特許
を申請しなかったのだ。「特許を申請すると、その技法が公開されてしまいます。
だから、あえて特許を申請しなかったんですよ。他社にまねされたくないノウハウがたくさん
詰まっていますからね」この戦略が開発以来、15年近くに渡り、世界市場でトップを走り
続けるロングセラー商品をつくりあげたといえる。
他社に技術をまねされたくない あえて特許を申請しないことで、
世界シェア7割のロングセラー商品を構築。
冒頭で述べたとおり、同社には営業要員がいない。開発依頼は、ほとんどインターネット
経由で舞い込んでくるのだという。「国内の企集から毎週のように引き合いがありますし、
海外の企業からも、時おり引き合いがきますね」と伊藤社長。「ただし、当社のキャパシティ
の問題から、引き受けるのは年間7-8件ほどです」。 それを約3ヵ月のサイクルで仕上げて
いくのだという。これまでにセミナー会場で聴講者へ3〜5択の質問を出し、聴講者がボタン
を使って回答、それを瞬時に集計する無線集計機(開発依頼先:NEC)、電車バッテリあがり
復旧用可搬型電源(同:東京メトロ)、人工衛生「マイクロラブサット2号機」の通信用機器
(同:宇宙航空研究開発機構)などを開発してきた。「無線集計機は簡単につくれると思う
かもしれませんが、数十もの発信を一度に受信するというのは意外に難しいのです」
そんな同社が目下開発中なのが、人工視覚。2004年5月12日付の朝日新聞によると、
視覚障害者にCCDカメラ付きの眼鏡をかけてもらい、そのカメラが捕らえた画像を目の奥
に埋め込んだLSI(大規模集積回路)チップに送り、光を電気信号に変えて画像を見るという
もの。 数年前から国家プロジェクト(新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO)として、
大阪大学や医療機器メーカーの「ニデック」(愛知県)などが参加して開発を建めているという。
同社では、眼鏡の縁から目の奥にあるLSIに電力を送るための装置の開発を担当している。
「まもなく完成する予定です」と伊藤社長は年話す。「早ければ、来年にも実用化されるよう
です。実用化されれば、国内のみならず、世界中でニーズがあると思います」
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