ダイヤモンド社

 月刊中小企業

 2000年1月号で紹介
 特集記事
 生き残り戦略としての
 産学連携




特集・生き残り戦略としての産学連携

中小企業3社で電通大との共同研究を推進
  ファースト電子開発

大学との連携はこれが初めて

無線機器と電子応用機器の開発メーカーであるファースト電子開発が、電気通信大学(電通大)と共同研究を行う事になった背景には、異業種交流活動がある。
同社はかねてから他社との共同開発に積極的だったが、一年前には東京都の異業種交流プラザにも参加。交流活動を通じて知り合った大栄精工、アイ・エレクトロンビームとともに3社で協同プロジェクトを模索するようになっていた。丁度その時期にメンバーの一人が電通大の湯郷成美助教授の研究発表を聞く機会があり、三社で相談の上その研究テーマでの共同研究を同助教授に持ちかけることにしたのである。
湯郷助教授が研究していたのは、室素とメタンガスを材料にダイヤモンドの薄膜を形成する技術だ。 ダイヤモンドの薄膜は半導体にもできるなど用途が広く、たとえば、ぺットボトルにコーティングすれば、ぺットボトルのままで再利用することも可能になる。ただ、それまでの技術だとごく小さな薄膜しかできないので、高周波プラズマによって大面積の薄膜を形成する技術を共同で研究することにした。電通大側も三社の申し出を了承。共同研究は1998年4月にスタートし、三社はこの研究について都の助成金を申請した。

「電通大は以前から産学交流に積極的に取り組んでいると聞いていましたし、アイ・エレクトロンビームの社長が湯郷先生と面識があったので、私たちのはうから大学側にアプローチしました。当社は企業との共同開発は数多く経験していましたが、大学との連機はこれが初めてでした。電通大は無線関係の研究では日本でもトップですから、その面でもいろいろ得られるだろうと期待していましたね」(伊藤義雄社長)
共同研究は、調布市にある電通大の産学交流センターを拠点に行われた。この研究には窒素ガスなどを使用するので、もし、三社だけで研究しようとしたら新たに大がかりな配管工事や消防法の届け出なども必要になるので、実際上はほとんど不可能だったと見られている。ただ、同センターの設備を使用するためには、年間で数10万円から120万円ほどを大学側に支払う必要があった。

意外に低かった大学に敷居

高周波プラズマによる技術はまだ世界的にも前例がなぃため、研究はまずどういう条件でタイヤモンドの薄膜ができるかを調べる実験と、そのデータの解析から始まった。大栄精工は電通大に選任の技術者を一人派遣し、湯郷助教授などの指事を受けさせた。また、ファースト電子開発は電源装置、大栄精工は真空チャンバー、アイ・エレクトロンピームはプラズマというように、それぞれの得意分野を分担しあって開発、製造に取り組んだ。
「私はもう一人の従業員と共に、月に数回、大学へいって先生に指導していただきました。ただ大学の研究室では大学院生たちも研究のために設備を使つていて、私たちがいつでも自由に使えるという状態ではありませんでした。そのせいもあって12月いっぱいくらいまで実験のデータ取りに追われてしまいました。
助成金を申請していたため、翌年の二月末までになんらかの成果を出さなければいけないことになっていたので、これはちょっときつかったですね。もらろん、私たちは中小企業ですから、この研究にかかりきりというわけにはいかず、他の仕事もしながらですから大変でした」(同)
助成金事業であったため、研究は当初から一年間という期間が定められていた。そのため、この共同研究は1999年の2月でひとまず終了した。その成果に関しては、ダイヤモンドの薄膜を形成する迄には至らなかったとして、都が一時助成金の支給に難色を示すという一幕もあった。

間題意識のズレもある

たしかに、すぐ販売できる製品の開発までにはいたらなかったし、今、ファースト電子はこの研究を中断している。だが、それなりの成果は得られたと伊藤社長はいう。
「ダイヤモンドそのものではありませんでしたが、それに近いものはできましたし、今後の研究に有用なデータも取ることができました。これまでは、当社のような中小中小企業にとって大学は敷居が高く、求人票も出せないという先入観がありましたが、実際に出人りしてみれば、受け入れてくれることもわかりました。これからも機会があれば、大学との共同研究や開発をしていきたいと思っています」(同)
だが、その一方で、いくつかの間題点も出た。「大学側は学会で発表するために新規の技術を追つていますが、私たちは完全なダイヤモンドでなくでなくても使えるものなら商品化したいと考えていました。そこにちょっと、目標のずれがあったように感じます。また、当社は電源装置や無線関係の分野で指導を受けたかったのですが、湯郷先生は物理がご専門で、大学の研究室は縦割りの組織ですから、他の先生の指導をうけるのは難しいようです」(同)
なお、伊藤社長は、「TLOは、大学保有の特許は少ない」ことから、今は積極的に動くつもりはないという。

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