国民生活金融公庫
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世界に通じる無線技術で 不動の地位を確立 ファースト電子開発 受注先に対し価格決定権 (受注価格を決める際の主導権)を握ることができれば、大きな利点となる。値下げ競争に巻き込まれにくく、安定した収益性を維持しやすいからだ。そのためには、自社にしかできない加工技術を身に付けるなど、同業他社との差別化を徹底する必要がある。 一般的な印象では、規模の大きい企業ほど価格決定権も強いように思われる。しかし、国民生活金融公庫総合研究所 「中小機械工業の経営活動に関する調査」によると、価格決定権が「自社にある」または「おおむね自社にある」とする割合は、従業者数9人以下の企業で47.4%、10人以上の企業で43.1%と、むしろ規模の小さい企業のほうが高くなっている(図)。 これは、小規模な企業ほど他社のあまリ手掛けない特殊な加工 ・ 製品分野に従事しているケースが多いためと考えられる。逆にいうと、そうした分野に特化したからこそ、小規模なままで存続できている面もあろう。 電子関連機器を開発・製造するファースト電子開発(株)も、従業者数6人という規模ながら、この業界で括るぎない地位を築いている。同社の強みは、電子機器のデジタル化が進むなか、あえて無線というアナログ分野に特化することで自社の希少価値を高め、すべての受注先に対して常に価格決定権を握つている点にある。 ■会社概要 ■代表者 伊藤義雄 ■所在地 東京都板橋区清水町79-2-203 ■電話番号 03(5248)6644 ■資本金1,000万円 ■創業1967年 ■従業者数6人 ■事業内容 電子関連機器の開発・製造 ■URL http://www.first-ele.co.jp/ ■代表者プロフィール ■(いとうよしお) ■1942年生まれ。 ■芝浦工業大学電子工学科率業。 大手電気メーカー勤務を経て67年に独立、 創業。 無線技術を応用 した電子機器の開発で高い評価を得ているそうですね。 当社は1967年の創業以来、一貫して無線用アナログ回路の設計・ 製造技術を磨いてきました。そのノウハウを武器に、高性能なアナログ電子機器を次々と製品化することで、 受注先から好評をいただいています。 近年、パソコンや携帯電話などのハイテク製品に限らず、多くの電子機器にはデジタル回路が搭載されるようになりました。一方で、特殊な通信装置や警報装置をはじめ、今なおアナログ回路が重要な役割を果たしている分野も決して少なくありません。当社はそこにターゲットを絞つているのです。 もっとも、こうしたアナログ製品は小ロットの特注品が大半で、市場としての成長性は見込めません。ですから、当社にとって事業規模を拡大するのは困難な状況にあります。 それでもあえてこの分野に特化しているのは、強力なライバル企業がほとんど存在しない ため、安定した受注量を確保しやすいからです。 具体的には、どのような製品を開発されているのでしょうか。 当社の代表作に、アルペンスキー用のタイム計測装置があります。これは、スイスの時計メーカーであるタグ・ホイヤ一社と共同で90年に開発した製品です。きっかけは、それまで有線だったタイム計測装置を無線化して設置の手間を省こうと考えた欧州のスキー連:盟が、全世界に開発を公募したことでした。それに名乗りを挙げたタグ・ホイヤ一社が、日本の総代理店を通じて当社に無線装置の開発を依頼してきたのです。 しかし、この開発には計測誤差の極小化という難題がありました。連盟が求めてきた誤差の基準は1,000分の5秒以内です。つまり、スタート地点から発信された無線信号をゴール地点の受信機が読み取るまでの時間を、この範囲内に抑える必要があったわけです。 通常、 アルペンスキーのコースは全長2,000〜3,000メートルで標高差が数100メートルあり、雪や風向き、気温などの気象条件も不安定です。こうした環境下で正確に電波を送受信でき、常に求められる基準を満たす装置を作ろうとすると、電波の周波数の選択や感度調整などが極めて難しいのです。 それでも当社は、蓄積してきたノウハウを結集し、約6ヵ月をかけて何とか開発にこぎっけました。そして、最終的にこの基準をクリアできたのは世界中で当社だけだったのです。 |
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このタイム計測装置は、その後スキーだけではなく自動車レースや陸上競技などにも広く採用されるようになりました。当社は現在も、タグ・ホイヤ一社に対しOEM でその装置を供給しています。 また、最近の開発実績として、宇商航空研究開発機構 (JAXA) から受注した人工衛星用の無線通信機があります。これは、ロケットから切り離された人工衛星の状態を確認し、 正確な軌道に乗せるための装置です。字宙プロジェクトへの参加は初めてでしたが、ここでも独自のノウハウをもとに試作と実験を繰り返し、受注先に納得いただける製品を完成させました。 アナログ回路の設計・製造で、それほどの技術差が出るとは思いませんでした。 図面のある注文には応じない ―すると、まったく図面もない状態で受注されるのですね。ほとんどの場合、「こんなものが作れないか」という相談から出発します。つまり、受注先からいただくのは最終製品のイメージだけで、それを形にするのが当社の役割ということになります。逆に詳細な製作仕様書や設計図の出来ている注文には、開発型メーカーとして一切応じていません。 |
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異業種交流で受注機会を拡大 |
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