製造業の課題解決と技術革新を支援する
日経ものづくり 2008年7月号
技術がつなぐ 中小企業リレーで当社の技術が紹介されました。
競技用のタイム測定装置で強み無線応用の小ロット需要に対応
ファースト電子開発は、無線を利用した様々な電子応用機器の開発を手がける。このところ同社の持つアナログ技術を求めて企業や大学からの発注や提案案件が急増している。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH2Aロケットで2008年度に打ち上げ予定の人工衛星に同社の通信機器が搭載され宇宙に飛ぶ予定だ。無線に代表される高度なアナログ技術。当社はメカトロニクス製品を製造しているが、電子分野の開発で行き詰まると、いつもお世話になると。同社のような開発型中小企業は電子機器分野では貴重な存在だ。
競技用のタイム測定装置で強み無線応用の小ロット需要に対応 ファースト電子開発は.無線を利用したさまざまな電子応用機器の開発を手掛ける。社員数8人の小所帯だが,このところ同社の持つアナログ技術を求めて企業や大学からの発注や提携案件が急增している。字宙航空研究開発機構(JAXA)に納入した無線通信装置は.2008年度に打ち上げ予定のH-ⅡAロケットに搭載されて宇宙に飛ぶ予定だ。 同社の特徴は. 電子機器のデジタル化が進む中, 無線というアナログ技術に特化していること。他社との違いを明確にでき.すべての受注案件に対して価格決定の主導権を持っている。 もっとも,こうしたアナログ製品の多くは小ロットの特注品で.市場としての急激な成長性は見込めなぃ。それでもこの分野に特化するのは,「強力なライバルが存在せず.安定したビジネスが行えるため」とファースト電子開発社長の伊藤義雄氏は語る。 |
誤差1/1000秒のタイム測定 この開発には測定誤差の極小化という課題があった。 連盟側が求めた誤差の基準は5/1000 秒。アルぺンスキーの競技コースは全長2000~3000mで標高差が数百mあり,見通しがきかない場合もある。さらに、雪や風向き、気温などの気象条件も不安定だ。 こうした環境下で正確に電波を送受信できる装置を造ろうとすると、電波の周波数の選択や感度調整などが極めて難しい。それを同社では約6カ月で完成させた。海外企業との競合になったが、誤差の基準を満足できたのは同社だけだった。 一般に、厳しぃ条件下で電波を使う場合、デジタル変調で信号を送ることが多い。しかし送受信回路などで信号が遲延することから、正確なタイムは計れなぃといわれていた。「よく「どうしてウチだけができたのか』と聞かれるが、アナログ回路設計の基本を身に付け、それを応用したとしか言いようがない。そこがアナログの面白いところ」と伊藤氏は指摘する。 機器構成は極めてシンプルだ。スタート情報を知らせる送信機とその受信機、選手がゴールしたときに信号を発信する光電管、それに選手ごとの夕イムを集計するマイコンから成る。 「無線機やラジオを作ったことのある人なら分かると思うが、回路基板の上にトランジスタやコンデンサ、抵抗器などを配置する際、部品を一つ取り換えたり、配列を微妙に変えたりするだけで、感度や音質に驚くほどの違いが出る。タイム測定装置の場合も同様で、 当社では遅延が生じない回路を徹底的に追求し、どうしても遅延が出る個所は適切に補正するなど、回路設計のテクニツクを駆使した」と同社の技術者は説明する。 当時の最新の電子計測器で測定したところ、同社の製品は1/1000秒の誤差に収まることが確認された。 現在、スポーツ競技用タイム測定装置は世界各国のスキ一競技や陸上競技、自動車レースなどのほか、警視庁の白バイ隊競技などにも使われている。発売以来、TAG Heuer社のブランドで国内外に4000台以上が出荷されているという。 |
客先の悩みに応える 同社の創業は1967年。伊藤氏は若いころからアマチュア無線が趣味で, 大学を卒業した時には,マイクロ波の無線送信機を一から設計できた。会社設立後は自社ブランドのアマチュア無線関連機器の製造からスタートしている。その後、1972年にオーディオ信号のダイナミックレンジを圧縮するコンプレッサがヒットし、国内だけでなく海外市場にも多数輸出された。しかし、3 年もすると特許の公開情報からノウハウが漏れてコピー商品が出回るようになり、たちまち経営が苦しくなった。 そこで1985年を境に、自社ブランドの量産製品から、小ロットの受託開発路線へと方針転換した。 最近の同社のビジネスは「こんなものが作れないか」という客先から持ち込まれる相談に応えたものがほとんどだ。 例えば, JR東日本の新幹線の切符売り場にある「駅員呼び出し装置」。この装置は束京都内の山手線の田端駅など33駅で採用されている。 同じく鉄道関係では,緊急時の電源装置も開発した。送電線の事故や故障で停電が起きたとき、復旧のためにパンタグラフを立ち上げる初動用の電源装置だ。この装置は東京メトロや埼玉高速鉄道で“救急箱”として常備されている。 最近の例では、高速道路のトンネル内でFMラジオが聴けないことを解決する無線応用装置を開発した。これにより、近いうちに多くのトンネルでFM ラジオを聴くことが可能になるという。 同社には営業担当者がいない。それでも開発依頼がほとんど毎週のようにインターネット経由で舞い込んでくるという。ただし、社内リソースの問題から、引き受けるのは年間7~8件ほどである。その際、顧客企業からは最終製品のイメージだけを聞き、製品開発はすべて同社が行う。量産化された電子回路の組み立てや、既に設計図のある注文には一切応じない。「今後も、願客の悩みに応え、なおかつ当社のコア技術が生かせる製品開発を貢く」 と伊藤氏は語る。 ファースト電子開発●プロフィール |