日経産業新聞 2010年10月13日(水曜日)技あり中小 強さの秘密 で紹介
冬山で誤差1,000分の1秒 前例なき製品、実績刻む 無線応用機器 ファースト電子開発 
無線を応用した機器を製造するファースト電子開発。老人用の非常時無線通報システムや宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受注した人工衛星用の無線通信機、高速道路のトンネル内でFMラジオが聴ける無線装置など世に送り出した機器は、家庭用から宇宙まで枚挙にいとまがない。わずか従業員5人の小さな企業だが、高い技術力を背景に、前例のない新製品を作り続ける。

技あり中小 強さの秘密 ファースト電子開発
冬山で誤差1000分の1秒 前例無き製品、実績刻む
冬山で誤差1000分の1秒   無線を応用した機器を製造するファースト電手開発(東京・北、伊藤義雄社長)老人用の非常時無線通報システムや宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受注した人工衛星用の無線通信機、高速道路のトンネル内でFMラジオが聴ける無線装置など世に送り出した機器は、家庭用から宇宙まで枚挙にいとまがない。わずか従業員5人の小さな企業だが、高い技術力を背景に前例のない新製品を作り続ける。

イメージだけで

東京・板橋にある旧中仙道沿いのマンションの一室。1機100万円を超える高性能測定器が約40台並び、事務所と言うよりは研究室のよう。室内は話し声は無く静か。力チッ、力チッと装置の具合を試す音が響く。「集中して作業してますから、いつも静かなんですよ」と、技術者でもある伊藤社長は穏やかな口ぶりで話す。「何とかなりませんか」大企業の技術担当者が板橋の事務所に足を運ぶ。受注先からもらうのは最終製品のメージだけ。それを形にするのが役割だ。量産化された電子回路の組立てや設計図のある注文は、単なる下請け業務なので一切応じない。マニュアル化出来ない製品に受注を絞っているので、価格決定権はファースト電子開発が握る。現金払いのみで、手形決済には応じない。「相手が大企業で有ろうと、海外企業であろうと対応は同じです」と伊藤社長。営業担当者はおかず、営業と言えば、手作りのホームページのみ。だが口コミなどで受注は海外からも舞い込む。

開発型に中小企業は特許を取得して技術を守るのが一般的だ。だがファースト電子開発では原則、特許は申請しない。伊藤社長は「特許で技術内容が公開されると、独自のノウハウがまねされる」と警戒する。費用も期間もかかる。製品の殆どが100個までと少なく、特許として公開するメリットは殆ど無いという。設立は1967年。OKIの技術者だった伊藤社長が独立した。趣味のアマチュア無線で音量を平準化する装置を開発。販売すると注文が殺到し、事業は軌道に乗った。その後も無線関連機器を開発したが、香港や台湾など海外企業のコピー商品が出回った。零細企業として裁判を起こす費用も無ければ、社会に商品を浸透させる広告宣伝費も無かった。だが、これが転機となった。
「月100台程度のニッチ市場製品なら他社も追従してこない」ホームラン狙いの商品開発からヒット狙いに戦略を転換。それが奏功し、次々にアイデアを製品化していった。
最大のヒットとなったのがスポーツ競技用タイム計測装置。欧州のスキー連盟が、有線だった測定装置を無線にし、機器の設置の手間を省こうという目的で製品化を求めた。スキー競技のコースは全長2000〜3000メートルで標高差もある。気象条件も不安定で測定誤差が生じやすい。 

ホイヤーが依頼 
この難技術にスイスの時計メーカーのタグ・ホイヤーかtら依頼を受けて、製品化に成功した。開発した装置の誤差は1000分の1秒と、他を寄せ付けない精度だった。89年にタグ・ホイヤーのブランドで発売して以来、国内外に出荷し、世界シェアは7割になるという。
高い技術力を誇る同社だが、08年のリーマン・ショックの打撃を受けた。2010年3月期の売上高は3000万円にとどまった。大企業からの研究開発が全体の7割を占め、経費削減策として開発案件が急減したのが響いた。ただ鉄道や高速道路向けの無線機器の開発受注が回復傾向にあり、11年3月期の績は改善に向かうという。

「もうすぐ70歳ですが、今でも猛烈に勉強しています」と伊藤社長。技術的な悩みを抱えて駆け込んでくる企業の担当者は最新技術を持っている。伊藤社長はどんな技術でも顧客と対等に話せるように常に技術を吸収し、全力で答えを導き出す。「町工場だからダメとは言わせない」。技術者としての誇りを胸に、今日も測定器の前に座る。(倉本 吾郎)
 ファースト電子開発株式会社   TOPページへ